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第25話:もう一人の男の部屋

作者: 月亭脱兎
last update 公開日: 2026-10-23 21:27:37
 土曜日の朝。

 目を開けた瞬間、胃の奥が重かった。

 眠れなかった。結局、ほとんど。

 スマホを手に取る。

 昨夜の圭からのメッセージ。

『明日の夜、話がある。19時に、いつもの店で待っている』

 九条からのメッセージ。

『大事な話がある。明日、必ず来てくれ』

 ——待って。

 19時、いつもの店。

 20時、九条のオフィス。

 あれ、これって微妙にダブルブッキングしてる?

 昨夜、返信した時は気づかなかった。頭がぼんやりしていて、確認もせずに、どちらにも『行きます』と送ってしまった。

 ——どうしよう。

 1時間差。

 圭との話が早く終われば、間に合うかもしれない。でも——

 『話がある』

 二人とも、同じ言葉を使っていた。

 短い話で終わるとは、思えない。

 仕事のことを考えれば、九条だ。大富グループへの対策、凛の調査結果——話し合うべきことは山積みだ。

 でも——

 副社長室で見た、冷たい目。『天道か。何か用か』という他人行儀な声。

 それなのに、向こうから『話がある』と言ってきた。

 『もうお前とは関わらない』——そう言われるのかもしれない。

 それとも——

 いや、
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     土曜日の朝。 目を開けた瞬間、胃の奥が重かった。 眠れなかった。結局、ほとんど。 スマホを手に取る。 昨夜の圭からのメッセージ。 『明日の夜、話がある。19時に、いつもの店で待っている』 九条からのメッセージ。 『大事な話がある。明日、必ず来てくれ』 ——待って。 19時、いつもの店。  20時、九条のオフィス。 あれ、これって微妙にダブルブッキングしてる? 昨夜、返信した時は気づかなかった。頭がぼんやりしていて、確認もせずに、どちらにも『行きます』と送ってしまった。 ——どうしよう。 1時間差。 圭との話が早く終われば、間に合うかもしれない。でも—— 『話がある』 二人とも、同じ言葉を使っていた。 短い話で終わるとは、思えない。 仕事のことを考えれば、九条だ。大富グループへの対策、凛の調査結果——話し合うべきことは山積みだ。 でも—— 副社長室で見た、冷たい目。『天道か。何か用か』という他人行儀な声。  それなのに、向こうから『話がある』と言ってきた。 『もうお前とは関わらない』——そう言われるのかもしれない。 それとも—— いや、期待するな。 まずは圭を優先しよう。  九条には、少し遅れると伝えればいい。 九条にメッセージを送る。 『すみません、少し遅れます。20時半には必ず伺います』 送信。 数分後、返信が来た。 『わかった。無理するな』 いつもより素っ気ない。 ——九条も、何か変だ。 いや、考えすぎだ。きっと。 シャワーを浴びる。着替える。化粧をする。  鏡の中の顔色の悪さを、チークでごまかす。 休日出勤だ。どうせ、見られる相手は限られている。     ◇ 今日もなんとか、仕事を終えた。 土曜は証券市場が閉じているので、株価は公には動かない。  それだけが、唯一の救いだった。  まあ、何も解決はしていないけど。 このまま放置すれば、含み損は週明けには30億に達するかもしれない。 夕方、18時。 タクシーに乗り込んだ。「六本木の——」 行き先を告げようとした瞬間、スマホが鳴った。 圭からだ。「もしもし」『今、どこにいる』 いつもの低い声。でも、どこか——張り詰めている。「タクシーに乗ったところです。これから、いつもの店に——」『店を変える』 ——え?

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     火曜日、午後2時。 三條グループ本社ビル、28階会議室。 長いテーブルの端に座らされた私を、取締役たちの視線が刺していた。「それで、天道さん。この25億円の含み損について、どうお考えですか」 取締役の一人——名前は覚えていない。五十代くらいの、眼鏡をかけた男性——が、冷たい声で言った。 パサ、パサ。資料をめくる音が、やけに大きく聞こえる。「現在、市場の動向を注視しながら——」「注視? 注視している間に、損失は膨らみ続けていますが」 別の取締役が口を挟む。「素人に600億を任せた結果がこれですか」 ——素人。 分かってる。ついこの間まで、借金を抱えた底辺OLだった。 でも——「三條副社長の強い後押しがあったとはいえ、我々はこの人事に当初から懸念を示していました」「結果的に、その懸念が的中したわけですね」 空調が、低く唸っている。それ以外は、沈黙。 同情ではない。期待でもない。 ——処分を待つ被告を見る、裁判官の目だ。「運用資産の縮小を提案します」 最初に発言した取締役が、書類を閉じた。「現在の600億を、100億まで段階的に縮小。残りは本社の運用部門で管理する」 ——100億。「MISAKIシンデレラファンドは事実上の解体となりますが。天道さんには、部門長など役職を用意しますので、配置転換を——」 ——勝手なことを。原資の200億を600億まで拡大させたのは、私と九条なのに。 ——手柄だけ奪うつもりだ。「お待ちください」 声が出ていた。 自分でも驚くほど、はっきりした声だった。 取締役たちが、私を見る。「この下落は、大富グループによる意図的な攻撃です。株価操作と風説の流布——明確な市場操作の証拠があります」「証拠?」「はい。空売りの異常な増加、関連銘柄との連動した売り圧力、SNSでの組織的な情報拡散——すべてが連動しています」 昨夜、九条と話し合った内容を、そのまま伝える。 取締役たちの表情が、わずかに変わった。「つまり、我々が撤退すれば——大富グループの思う壺です」「しかし、現実に損失は——」「本当に損失ですか? 今この時点で清算したとしても、300億以上の利益が確定しますけど」「……それは」 発言した取締役が口ごもる。隣の男が、気まずそうに資料をめくり直した。「違いますか? 簡単な算

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